タイ舞踊は、指先の芸術と言われています。指先を美しく見せるために手を反らしたり、爪をつけたり、とても繊細に美しく踊ります。 また、タイ舞踊は、腰を落とし床をすって歩き、ゆっくりと体をくねらせながら、曲線美を見せるのが特色です。男女の愛情表現のシーンはもちろん、戦闘シーンであっても、タイ舞踊独自の美しさを追求しながら、柔らかくしなやかに、あくまでも優雅に表現していきます。  タイ舞踊の衣装は、東南アジアの中で随一の美しさを誇ると言われています。特に、古典舞踊の衣装は、金糸・銀糸で刺繍し、宝石をちりばめたように絢爛豪華で、頭には仏塔をイメージさせる金の冠をかぶります。民族舞踊の場合においても、各地方の特色ある鮮やかな色合いの衣装を身につけます。
タイ舞踊で使われている音楽は、タイ特有の楽器を使い、西洋音楽に全く影響を受けていないタイ独自のリズムでとても魅力的です。音楽自体が、比較的穏やかに、静かに、そして滑らかに奏でられています。聞き慣れていない人にはメリハリがないと感じられるかもしれませんが、これは一般的に穏やかでおとなしい性格であるタイ人の国民性を反映していると考えられています。舞踊劇に使われている歌も同様で、歌い方は声の美しさを強調し、男性が歌う歌であっても、女性にささやくように美しく優しく歌われています。

タイ舞踊は宗教と非常に密接な関係を持っています。タイの舞踊は元来、神に感謝を表す儀式で踊りを捧げるのを目的として踊られてきました。タイの民衆は山や川、森などの自然界に宿る神々を信じ、神々を喜ばせるために踊ったり歌ったりしていたと言われています。王宮内においても、宗教的な儀式の一部として舞踊や舞踊劇が上演されてきました。

タイ舞踊において師弟関係は、大変重要な要素として受け継がれ守られています。舞台でタイ舞踊を上演する前には、必ず師を敬う儀式を行わなければなりません。その儀式を「ワィクルー」と言います。「クルー」とは「師匠」、「ワィ」とは「拝む」という意味で、その儀式に参加しなければ、タイ舞踊の世界に足を踏み入れることができません。タイ舞踊を学ぶのに欠かせない儀式となっています。

物質文化に侵された現在では失われつつある精神文化が、タイ舞踊の中に大切な心として生き続けています。タイ舞踊とは、ただ踊るだけでなく、その歴史のなかの精神文化を含めた舞踊と言うことができるのです。